この記事は、IoTに関するシリーズ記事です。前回の記事では屋内ナビゲーションについてご説明しました。また、位置情報サービス全般についての記事では、サービスを以下の2つのカテゴリーに分類しました。

  • 近接通信ソリューション:近接通信ソリューションは測位システムよりもシンプルで、単一または複数の技術によって2台のデバイスの位置関係を把握します。
  • 測位システム:測位システムは、デバイスの物理的な位置を知るためのシステムです。測位システムにはより高度なインフラが必要となります。

近接通信ソリューションは、さらに以下の2カテゴリーに分類できます(左上の図)。

  • 探し物探索ソリューション:探し物探索ソリューションの例として、キーチェーンや荷物、リモコンといった個人の所有物に取り付けるタグが挙げられます。タグを取り付けた所有物は、置き忘れや紛失の際に追跡したり、位置を確認したりすることができます。
  • POI情報システム:位置が固定された特定のデバイスの近くにいるときに、関連情報をスマートフォンに表示するアプリなどです。たとえば、ショッピングセンターでセール中の商品に近づいたユーザーに対し、ショッピングセンターのモバイルアプリから通知を送るといったことが可能になります。

測位システムは、さらに以下の2カテゴリーに分類できます(右上の図)。

  • リアルタイム位置情報システム(RTLS):資産の追跡と、施設内における人の追跡の両方に使われます。RTLSソリューションはネットワークを中心として機能します。位置情報を追跡してバックエンドのサーバーに送信し、ユーザーに情報を提供します。通常、デバイス自体が位置を認識するわけではありません。例えば倉庫内のパレットやフォークリフト、従業員、病院内の超音波機械や患者などの位置を特定・追跡することで、安全確保と緊急時における応答時間の最適化を支援します。
  • 屋内測位システム(IPS):IPSソリューションは、RTLSソリューションとは反対ににデバイスを中心として機能します。デバイスが自身の位置を把握し、ユーザーに位置情報を報告します(スマートフォンアプリを介するのが一般的です)。屋内測位システムは、空港や博物館、ショッピングモール、テーマパーク、医療施設、カンファレンスセンターなどにおける屋内ナビゲーションで使われています。

資産追跡とは何か?

資産追跡は、RTLSシステムとして最も一般的に使われているソリューションです。追跡する対象が移動する資産という点を除けば、屋内ナビゲーションや道案内システムと非常によく似ており、ネットワークを中心として動作します(システムが資産を追跡し、資産自体は自身の位置を認識しない)。技術の面でも、似た技術か、同じ技術が使われます。

資産追跡は、施設や一定エリア内の様々な物体を、以下のような目的で追跡するために使われます。

  • 資産の運用効率の改善(使用状況の追跡、機器やツールの位置情報の特定など)
  • 物流における資産の追跡(在庫や出荷の追跡など)
  • 商業環境における消費者の行動の分析(スーパーマーケットにおける買い物客の行動追跡など)
  • 生産施設内の資産追跡(製造パイプラインにおける資産追跡など)

資産追跡の過程で収集されたデータは、意思決定のサポート、損失防止、資産運用効率の改善などに使われます。最終的な目標は、業務にかかる時間とコストの節約です。

資産追跡システムは、一般的に主に2種類のデバイスで構成されます。

  • 施設内に設置された固定のロケータデバイス
  • 資産に取り付けたり、追跡対象のユーザーが身につけたりする追跡タグ

バックエンドのソフトウェアはロケーションエンジンとも呼ばれ、システムの基幹として位置情報の計算を行います。他にもロケータデバイスの管理、資産の位置情報の報告、追跡指標のデータ分析を行うユーザーへのインターフェースの提供など、様々な役割を担います。

一般的に、追跡対象の資産は大きく分けて以下の2つのカテゴリーに分類されます。

  • 在庫:企業が販売代理店や消費者に出荷する商品など、一度手放したら基本的に戻ってくることがない資産です。追跡期間は短い傾向にあります。
  • 所有資産:施設内で社員が使うツールや機器など、企業が所有する資産で、使い続けられる限り追跡の対象となります。

両者にはいくつかの相違点があり、追跡方法にも違いをもたらします。例えば所有資産は、一般的に各資産に固有のシリアル番号で追跡します。一方、在庫は部品番号および数量で追跡します。これは、在庫の各商品は基本的に同じものとして扱えるためです。

従来、資産追跡は手作業で行われてきました。これは多大な人件費がかかる作業です。ですがコンピューターやソフトウェア、ワイヤレス技術などの近年の技術の発展により、はるかに効率的な自動化ソリューションが実現しています。

資産追跡は、以下のようなケースで使われます。

  • 建設現場における機械の追跡・運用効率の向上
  • 生産・製造施設における製造ラインの効率の追跡
  • 医療施設における医療機器などの追跡
  • 倉庫における在庫や出荷などに関する物流面の追跡
  • 教育機関における高価な機器の追跡・紛失や盗難防止

資産追跡のメリットは?

資産追跡は、ビジネス面で多くのメリットをもたらします。とりわけ重要な要素として、以下の点が挙げられます。

  • 運用コストの削減
  • ツールや機器の運用効率の改善
  • 空間および設備の使用効率の最適化
  • 重要資産の紛失・盗難防止
  • 在庫および出荷の自動管理

資産追跡におけるワイヤレス技術の最も重要な特性

資産追跡でワイヤレス技術を使う際は、以下の重要な特性を考慮する必要があります。

  • 拡張性
  • 位置情報の分解能(精度およびレイテンシー)
  • 消費電力(追跡対象が資産タグの場合)
  • コスト(デバイス・導入・保守などのコスト)

各特性の許容レベルは、ユースケースによって大きく変わります。例えば、ある部屋に資産が存在しているか分かるだけで十分な場合もあれば、メートル単位、ときにセンチメートル単位の精度が求められる場合もあります。

資産追跡に最適なワイヤレス技術の比較

前述のように、資産追跡は屋内ナビゲーションと非常に似通っており、最適な無線技術も似たものとなります。

  • Bluetooth® LE
  • UWB (超広帯域)
  • LPWAN(LoRa、LTE-M、NB-IoT)
  • RFID(アクティブ)

IoT関連ではありませんが、言及すべき重要なソリューションに、コンピュータビジョン(Computer Vision)が挙げられます。これも物体や人の追跡に使われるソリューションで、代替技術として支持を集めています。コンピュータビジョンは、コンピューターがデジタル画像内の人や物を認識できるようにするアルゴリズムや技術を指します。コンピュータービジョンの進歩により、最近ではカメラで資産をリアルタイムに認識して追跡できるようになりました。一方、コンピュータビジョンの欠点は、特にリアルタイムで実行する場合に、動画や画像およびコンテンツ分析のために非常に大きな帯域幅を使うことです。

Bluetooth LE(Low Energy)

Bluetooth® LEは、資産追跡の場面で最も一般的に使われているワイヤレス技術の一つです。資産追跡におけるBluetooth LEの最も大きなメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 低消費電力
  • 低コスト
  • 大規模な展開が可能

一方、Bluetooth LEのデメリットとして、同じ周波数スペクトルの信号と干渉するおそれがあることが挙げられます。また、RSSIに依存するシステムの場合、非常に高い精度にはならないことがあります。

 

2019年に、Bluetooth仕様 5.1でBluetooth®方向検知という画期的な新機能が導入されました。この新機能により、Bluetooth LEデバイスは放射角度(AoD)や受信角度(AoA)の情報を利用して、Bluetoothデバイスの位置情報を飛躍的に高い精度で特定できるようになりました。

 

資産追跡の場合は、AoAがより適切な手法となります。この場合、施設に複数のロケータデバイス(受信デバイス)を設置する必要があります。各ロケータ内には複数のアンテナが存在します。このアンテナ群をもとに、単一のアンテナを有するBluetoothビーコン(資産タグ)から送信された信号の受信角度を算出します。その後、RSSIとAoAの情報をもとに、ビーコンのより正確な位置を特定します。そして、資産の位置は通常、ウェブインターフェース(バックエンドサーバー)を介して資産追跡システムのユーザーに報告されます。

 

UWB (超広帯域無線通信)

UWBは、短距離無線技術として屋内ナビゲーションおよび資産追跡システムで幅広く活用されています。3.1 GHz~10.6 GHzの周波数帯域において、500 MHz以上の帯域幅で動作します。

UWBベースの資産追跡システムは、Bluetooth® LEビーコンのソリューションのようにRSSIや方向検知(AoAやAoD)を測定するのではなく、かわりにToF(Time-of-Flight)を測定し、デバイスの位置を算出します。

ToF方式は、(1)信号が送信機から受信機に伝わるまでにかかった時間、(2)信号の速度の両方を測定し、デバイス間の距離を算出します。これらの値を用いて、三辺測量による算出でターゲットデバイスの位置を特定します。

UWBによる資産追跡システムには、以下のような利点があります。

  • RSSIベースの技術と比べて動作周波数帯域が非常に広いため、精度が高くなります(無線信号のToFの測定と帯域幅は相関関係があります)。
  • 以下の理由から、他の信号との干渉が起こりにくくなります。
    • 異なる周波数スペクトルで動作する
    • 送信出力が低い
    • UWB信号は送信時間が短い

UWB技術を資産追跡に利用する場合、以下のようなデメリットがあります。

  • 高コスト(非実用的なコストになる場合も)
  • グローバルな規格の欠如(地域ごとに異なる規制が存在する)

LPWAN技術(LoRa、LTE-M、NB-IoT)

LPWAN技術は最近、特に長距離の資産追跡が必要な分野で普及が進んでいます。LPWANベースのソリューションは、一般的にアシストGPS(A-GPS)を使って位置を特定します。ですが、この手法は屋内に限定されるため、長距離の資産追跡の場合はRSSIやToFと三角測量を用いて位置を特定します。

LPWAN技術はレイテンシーが大きいため、デバイスが高速で移動する場合にはあまり適しておらず、デバイスの移動速度がそこまで速くないケースに用いられることが多くなっています。レイテンシーは位置計算の精度にも直接的に関係するため、LPWAN技術で十分に正確な位置を算出するのは一般的に困難です。

RFID

資産追跡への活用が考えられる無線技術として最後にご紹介したいのが、RFID(Radio Frequency Identification)です。RFIDベースの資産追跡システムでは、通常RSSI測定で場所を特定します。

RFIDタグは、「パッシブ」と「アクティブ」の2種類に分類されます。資産追跡では、一般的にパッシブではなくアクティブのRFIDタグを使用します。これは、運用範囲が広いためです。

RFIDベースの資産追跡システムには、以下のような欠点があります。

  • アクティブRFIDタグはコストが高い
  • 正確に位置を特定するには、多くのタグが必要
  • 精度が低くなる場合がある

それでは、これまで挙げてきた特性の観点から、これら一般的な技術を比較してみましょう。

ユースケースごとの分析

まず重要な前提として、大半の資産追跡システムでは、それぞれの目的に合わせて複数の技術を併用しています。例えば、施設内に設置されたロケータとバックエンドサーバー間のデータ転送にはWi-Fiを使用し、エリア内の対象デバイスの位置の特定にはBluetooth® LEやUWBなどの技術を用いるのが一般的です。

資産追跡で採用する技術を決める際に、重要になるのが「どれくらい正確な位置を把握する必要があるのか?」という視点です。一般的に、精度が高いほどコストは高く、システムは複雑になります。これは、資産追跡システムの技術の選択における重要な判断材料となります。ここで重要になってくるのが、特に総保有コストを考慮した場合、Bluetooth技術は、方向検知機能が追加されたことで他の技術よりも低コストで高い精度を実現しているという点です。

また、一部の資産追跡システムは、デバイス側でセンサーデータを収集するためにも使用されます。これは、追跡対象のデバイスに取り付けられた資産タグにセンサーを組み込むことで行います。こういったケースでは、技術が実用的に使用できるかを決めるにあたって、レイテンシーが重要な要素になります。

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